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#blognavi あ!もう5時や! 今の今までやっていたというわけではないんですが、今日はおためしプレイ結構やっていたかも? 第一部と第二部やってしまった。 第一部はネクロンでやっていてハヤテはTAU 第二部はTAUタッグ、ハヤテは一貫してのTAU。 TAUはユニットは多いんだけどね・・・ そーいやケイオスをちょっとやってみたら、マリーンが追加装備4つできるようになっていて、プラズマガンももてるようになっていた。 らぷたーも炎だせるしね。 あとケイオスプリンスってやつがいてHP5000もあるという。しかも脅威の回復力! 明日はこれ使ってみる所存です。 そーいやIGがちょっと弱くなっているといううわさ。でもTAUよりは使い慣れているせいか強く感じる。 ハウンド三体出したらもう御の字ですわ。 スペマリはねーこれ砲台がHP900しかないんだわこれ。 今まで見たいに砲台で守るってのもあんまりできないかもね。 そーいやTAUには砲台がないという・・・。 エルダーだけ試したことないから明日はエルダーもやろっと! カテゴリ [日常] - trackback- 2006年10月22日 04 53 11 名前 コメント #blognavi
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草原。 ゆらゆら揺れる草。そよそよと吹く風。黒の空に浮かぶ金色の月。微かに灯る月明かり。 一面に広がる鮮やかな緑も夜の闇にかかれば黒に染まり、草の原もたちまち黒の原となる。 その黒の原に一人の異質の黒。否、正確に言えば一人の少年が立っていた。 華奢な体を黒の執事服で身を包み胸には黒のタイ、 少し跳ねたややブルーがかった髪が全身の黒と対比して目立っている。 そして目を惹くのが少年の顔。 女顔かつ童顔で幸薄い容姿が一部の人の保護欲を引き立てるであろう。 綾崎ハヤテ。 両親が残した1億5680万4000円の借金返済のため三千院家の執事を努める少年である。 「……殺し合いですか。見たところドッキリではなさそうですね」 ハヤテは深妙に手を顎に当てながらなぜ自分がこの殺し合いに巻き込まれたかを考える。 (思い当たる理由なんていくらでもある。僕を倒せば三千院の遺産は全て手に入る。 そのためにこんな殺し合いに僕を参加させたのかもしれない。 そんなことを考えるよりも今は、現状の確認が優先ですけどね) 次々と思い浮かぶ理由に頭を抱えながらも、今はそんなことを考えるときではないとハヤテは思考を切り替える。 今の最優先事項は自分が今の状態で何を目標としてどう行動すべきか。 とりあえず、ハヤテはデイバッグを開け、まずは名簿の確認を行う。 あのホールでは人が多すぎて知り合いがいるかどうかわからなかったためだ。 できれば僕の知り合いが誰もいませんように、そう願いながら名簿をパラパラとめくり確かめる。 だが、その願いは粉々に打ち砕かれる。 「お嬢様!?それにマリアさんまで、ということはやはり遺産狙い……! ここで現時点での相続者であるお嬢様もろとも亡き者にするつもりなのか! 汚い手を使ってくれますね」 自分の大切な人達がこの殺し合いに参加していることに憤りを表情に表し、 ハヤテは両手を強く握りしめる。 その怒りに呼応したのか吹く風も強くなり、草が大きく揺れる。 (でも、遺産にはマリアさんは関係ないはず。どうして呼ばれた? ついでに?わからない。あの女――郷田真弓が何を考えているか。 それに遺産だけなら僕らだけを狙えばいいはず。 他の人達が参加している理由は? だめですね、ごっちゃになってまとまらない) ハヤテはうんうんと唸りながらこの殺し合いの開催の理由を考えてみるが一向に思い浮かばない。 それもそのはず。初めて会った人の考えなどいきなりわかるはずもない。 心を読む超能力でも持っていなければ到底無理な話だ。 (僕を覗いてこの島には77人の参加者がいる。 そんな人数を警察にバレずに誘拐することなんて可能なんでしょうか? それに三千院家のセキュリティをどうやってかいくぐり僕達をここに? だめだ、今はそんなことを考えるよりもお嬢様とマリアさんだ。 こんな危険な島に一人で……早く見つけないと!) 焦りが何も生まないことぐらいハヤテにもわかっている。 だが、自分の大切な人達が今こうしている間にも危険にさらされていると考えたらじっとしていることなんて到底できない。 ハヤテは他の支給品を確かめた後、ナギ達を探すために歩き始めた。 だがその歩みはすぐに止まる。 「……はぁ」 ハヤテは支給品として入っていたナイフを手に持ち、突然何を思ったのか後ろに振り向き茂みに投げつける。 「いいかげん出てきたらどうです?」 「バレていましたか。これでも気配の隠し方には自信があったのですけど」 暗闇から現れたのは紫のロングヘアの少女。 ハヤテが見た感じではとてもじゃないが殺し合いに乗れるような悪人面ではなく、 秩序を重んじる昔ながらの大和撫子。 そう感じたハヤテであったがどうやら違うと思考に区切りをつける。 「それにナイフの投擲の腕もなかなかのようで。尊敬しますわ」 「それは光栄ですね。で、どのようなご用件でしょうか?」 少女は笑顔で言葉を放ち、ハヤテもその言葉を受け取って喜びの表情を作る。 だが二人ともそれは表面だけのように見える。 少なくともハヤテの内心は喜びとは程遠い。 ハヤテの内心としてはこの人が黒か白かはまだ測りかねず、 表面上がどうであれ信用するには材料が足りなさすぎると判斷。 ひとまずは話を聞こうと問いかけるが。 「いえ、悪いのですけれど死んでいただけたらなと思いまして」 その間は一瞬にして終わる。 その言葉が言い終わるのと同時に少女は地を駆け一息でハヤテの懐まで跳ぶ。 「惨たらしく死んでくれませんか」 少女はデイバッグから取り出した槍で突きを放つがハヤテはしゃがんで躱す。 「お断りです、ってそのデイバッグから出したんですか!?明らかに物理法則おかしいですよ!」 「そんなことを気にしてる余裕あるんですか?」 「……っ!申し訳ありませんが、少しは痛いのを覚悟して下さいよ」 ハヤテは地をはうように回し蹴りを少女の脇腹に叩き込もうとするがそれは直接通らない。 少女は素早く槍の先端部分で受け、さらに出来る限り衝撃を受けないように横に跳び、蹴りの衝撃を殺す。 そこに間髪入れずにハヤテはナイフをくるぶし辺りの高さに投げつける。 「ははっ、なかなかですね。ですが、狙うなら頭を狙った方がいいと思いますよ」 少女は槍を横薙ぎに振るうことで飛んできたナイフを弾き飛ばす。 「ご教授感謝します、よ!」 ハヤテは再びナイフを放つ。そして少女が槍で弾き迫る。 少女の槍による斬撃をハヤテがナイフで受け流し後退。 そこから三度目の正直と言わんばかりに投擲。 その繰り返しが何回か続く。 しかし、その繰り返しも終わる。ハヤテのナイフの投擲がなくなることによって。 「っ!もうない!」 「あらあら、それは残念ですね。隙ありです」 ナイフが飛んでこないのに気づいたのか少女はハヤテに迫り槍で刺し殺そうとするが。 「くそっ…………なんてね」 「!?」 それよりも早くハヤテは袖からナイフを出し顔面目がけて投擲する。 少女はその場で足を止め、落ち着いて槍で飛んでくるナイフをなぎ払う。 「そこだ!」 その一瞬の間にハヤテは迫り少女の持っている槍の柄を思い切り上に蹴り上げる。 少女は耐えきれず槍を手放してしまう。 槍はくるくると上に高く舞い上がり少女の後ろの地面に突き刺さる。 「嘘も方便ですよ。これでチェックメイトです」 少女は槍を取ろうと後退しようとするがハヤテがそれをさせない。 ハヤテは即座に少女の懐に迫り拳を放つ。 「チェックメイトにはまだお早いと思いますけど!」 少女はハヤテの拳を叩き落とし貫手を放つ。 それをハヤテは腕を掴むことで貫手を止め、そのまま均衡状態が続く。 それからどのくらいたったのだろうか、均衡が破れる。 第三者の乱入によって。 「おいおい、俺も混ぜてくれよぉ」 その声が聞こえたのと同時に二人は逆の方向に大きく跳躍する。 二人は何か嫌な予感を察知したのだ。 「ひゃっはー!」 次の瞬間、二人の立っていた場所を銃弾が蹂躙した。 暗闇の中から現れたのは一人の少年。まだ中学生くらいだろうか。 半袖のパーカーに半ズボン、それに加えて背丈と顔から判斷するとまだ幼い印象が見受けられる。 しかしそんな少年の手には普通ではありえない、無骨なアサルトライフルが握られていた。 先程の銃撃はこれでやったのだと二人は判斷した。 少年は嫌な笑みを浮かべながらアサルトライフルを二人に向ける。 そこからの二人の行動は迅速だった。 「くそ!おい、逃げるなぁ!」 これを見た二人は脇見もせずにそれぞれ全速力で別の方向へ逃亡を開始した。 重火器相手に手ぶらでかなうはずがなく、それに武器も心許ない上にまだ序盤だから。 無理をする必要はない。 ハヤテも少女も状況を理解して、戦略的撤退を選んだのだ。 「どこだどこだどこだ!」 少年はアサルトライフルを乱射するが二人はもうすでにいない。 行動の迅速さが銃撃から逃れることを可能にしたのだ。 「畜生!逃がしたか。ああ、もう!もっと使い易い銃を寄越せよ!重くて撃ちにくいんだよ」 少年は悪態をつきここに居もしない主催者に対して憤りを表す。 この少年の名は長沢勇治。ひきこもりであり、日頃から人を殺してみたいなど危険な思考を持つ少年である。 そのような思考を持つ勇治がこの殺し合いに乗るのはもはや必然だった。 両親も知り合いもいないので気兼ねなくこのゲームに参加出来る。 勇治の気分はウキウキだった。 それにこの島で人を殺しても罪には問われない、むしろ推奨されているということが拍車をかけている。 勇治にとってこのバトル・ロワイアルはゲームなのだ。クリアは全員殺しての優勝。 ゲームはクリアしなくちゃいけないだろう?と考えながら勇治は嘲う。 「まぁいいさ。次会ったら殺せばいいんだし。僕、いや俺にはこのアサルトライフルがある。 それにあの女達が落としていった武器もここにある」 勇治は少女の落とした槍とハヤテの投げたナイフを丁寧に拾う。 ランタンをつけて明かりを灯せばナイフがどこに落ちているかなどもすぐに分かる。 このような地道なこともゲームのクリアに繋がる。むしろこれは王道だ。 武器集めは他人に対して有利になることだ、と勇治はそう考えていた。 「っし。たぶんこれで全部だな。辺りは大体は見て回ったし。 見てろよ、全員俺が血祭りに上げてやるんだ。ははははは!」 どこまでも自分勝手な少年は高笑いをしながら草原を去っていった。 【A-2/一日目・深夜】 【長沢勇治@キラークイーン】 【状態】健康 【装備】コルト M4 カービン(10/30) 【持ち物】支給品一式、予備マガジン×2、献身@永遠のアセリア、スティンガー×12@魔法少女リリカルなのは 不明支給品0~2 【思考】 0.人を殺したい 1.優勝を目指す。 【コルト M4 カービン】 米国の特殊部隊統合軍SOCOMが、コルト社に開発依頼したM16A2のカービンモデル。 汎用性は極めて高く、ダットサイトやスコープ、レーザーサイトなどといった照準用光学機器だけでなく、 フラッシュライトやスリング用スイベル、バイポッド、バーチカルグリップ等の補助器具が状況に応じて自在に交換可能。 【献身@永遠のアセリア】 槍型の永遠神剣。位は第七位。 【スティンガー@魔法少女リリカルなのは】 チンクの固有武装であるナイフ。何の変哲もないただの金属のナイフである。12本セット。 ◆ ◆ ◆ 「どうやら……逃げ切れたようですね」 B-2の北部にハヤテはいた。あの逃亡で少女とは別の方向へ逃げたため一人である。 「アサルトライフル、あんな物まで支給されているとは。 この殺し合いどうやら一筋縄ではいかないようですね」 いくらハヤテが常人より鍛えているとはいえ、銃で撃たれたら死んでしまう。 アサルトライフルならばなおさらだ。 それ故の逃走。だが仕方が無い、ハヤテはまだ死ねない。そう思ってしまったのだから。 「僕はまだ死ねない……お嬢様とマリアさんを無事に、平穏な生活に返すまでは」 大切な人達の笑顔を守るためにハヤテは再び自分に言い聞かせるように決意する。 その決意は何よりも固く、自分を犠牲にしてもいいと言えるぐらいだ。 (早く、銃火器に値する武器を見つけないと。あれに対抗するには必要だ。 さっき、ナイフは全部使っちゃったし武器はもうない。 残るのはこれだけだ) ハヤテがデイバッグから取り出したのはパイプ椅子と女の子の人形。 どちらも殺し合いに向く物ではない。 改めて見ても使えそうにないとハヤテは判斷しデイバッグの中に二つを戻す。 「無事でいて下さい、お嬢様、マリアさん。僕が行くその時まで」 ハヤテは再び走る。かけがえのないものを護るために。だがハヤテは知らない。 護るべき者の片方が既に死に至っていることに。 哀れな執事はこのまま知らずに踊り続ける。 殺し合いの島で道化のように。 【B-2北部/一日目・深夜】 【綾崎ハヤテ@ハヤテのごとく!】 【状態】疲労(中) 【装備】なし 【持ち物】支給品一式、上海人形@東方Project、パイプ椅子@SHUFFLE! 【思考】 0.お嬢様とマリアさんを探す 1.殺し合いには乗らない。 2.銃火器に値する物が欲しい。 【上海人形@東方Project】 アリス・マーガトロイドが持つ人形。上海かわいいよ、上海。 【パイプ椅子@SHUFFLE!】 リシアンサスが父親である神王を自重させる時に武器に使う椅子。 正直、これで叩かれるとそれなりに痛そうである。 ◆ ◆ ◆ 「疲れた……」 ハヤテと反対の方向、B-1の北東部に少女はいた。 少女の名は真田設子。アイギスの敵対組織に属し、セント・テレジア学園に潜入している暗殺者である。 「しかしなぜ、このような所に私はいるんだ。私は確か、学園の寮の自室にいたはず。 おかしいな……私がなすがままに攫われたということか」 設子はお嬢様口調を止め、普段の口調に戻す。どうせここでは誰も聞いていないので演技の必要もないということもある。 「それに、ここには私の他に山田妙子、いや本当の名は如月修史か。あいつもここにいる」 なぜか自分と同じようにここにいるアイギスのエージェントのことを設子は思い出す。 最も設子には彼がどう動こうと関係なく、興味もないのだが。 「どっちにしろ私のやることは変わらない。この島で優勝してさっさと戻ることだ。 幸いのことにここには私を楽しませてくれる奴がたくさんいることだしな」 設子はそう言ってついさっき戦った執事服の少年のことを思い出す。 (あの執事服の奴は槍による鋭い一撃を躱し、それだけではなく一撃を加えようとした。 ナイフの投擲の腕も申し分ない) 設子は心が踊っていた。自分と互角に渡り合える強者に。 バトルジャンキーと言われるほど戦いに渇望しているわけではないが、 それでも強者と戦えるのは嬉しいと設子は思う。 「奴とはもう一度戦いたいものだな。今度はお互い万全な状態で。 次は邪魔を入れさせんぞ」 あの邪魔さえ入らなければもっと戦えたのに、と設子は愚痴を漏らす。 (然るべき武器があればあの邪魔をした少年を殺していたのだがな。 生憎、銃はなく槍もどこかへ飛んでしまった。逃げて正解だったんだ、あれは) 今の手持ちの武器は槍がなくなった今、他に入っていた鉄パイプぐらいしかない。 仕方なく鉄パイプを現在の主戦武器にして設子は進む。 「ここはB-1の北東部。この先は劇場があるはず。地図に乗るほどなんだ、大きな施設だろう。 人がいるに違いない……楽しみだな。私を満足させてくれる奴がいればいいが」 設子はニヤリと嗤う。 これから進む先に自分を満足させてくれる好敵手がいてくれるといいと願いながら。 (如月修史、お前もだ。そう簡単に死んでくれるなよ。 ここでは殺さず生け捕りは難しいしな。殺す気でかかって来ることを願うよ) 最後に自分と同じ場所に潜入しているエージェントを思い浮かべて。 設子は夜の帳に消えた。 【B-1北東部/一日目・深夜】 【真田設子@恋する乙女と守護の楯】 【状態】疲労(中) 【装備】鉄パイプ 【持ち物】支給品一式、不明支給品0~1(武器はなし) 【思考】 0.優勝狙い。戦いを楽しむ 。 1.街に向かう。 2.銃が欲しい。 【鉄パイプ】 何の変哲もないただの鉄パイプです。特殊能力もついてません。 BACK スカーレット・オラトリオ 時系列順 NEXT たまたま~出会った彼女は華人小娘。たまたま近くにいた見知らぬ少女は…… BACK スカーレット・オラトリオ 投下順 NEXT たまたま~出会った彼女は華人小娘。たまたま近くにいた見知らぬ少女は…… GAME START 長沢勇治 NEXT 約束のはじまり GAME START 綾崎ハヤテ NEXT Memories Off-黄金の約束- GAME START 真田設子 NEXT 約束のはじまり
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執行委員の奔走(中) 昼下がりの公園。 ハヤテは手作りのサンドウィッチを籐のお弁当箱に入れ、来てみたのだったが。 「……誰も、いませんね」 「このへんは公園で遊ぶ年頃の子どもの少ない区画らしいからな」 「えっ……お嬢さま、ご存知だったんですかっ!? だったらなんで―――」 「そいつはあんまり色んな奴に顔バレしちゃマズいんだろ? だったら人の少ないところの方がいいだろうと思ったんだよ」 ハヤテの隣にいたナギが、ハヤテの手を掴んで目をキラキラ輝かせている子どもをちらりと見る。 今すぐにでも遊びに行きたい、という気持ちが全身からオーラとしてあふれ出す様子の待てをくらった犬状態の柊少年がそこにいる。 ナギはそんな子犬のような少年を見てため息をついて、言った。 「蓮司、遊んできていいぞ」 「ほんとかっ!?」 「嘘をついてどうする。行っていいのはこの公園の中だけだからな、外には出るなよ」 「いってくる! ありがとナギねーちゃんっ!」 それだけ言うと、わき目もふらずに駆け出す柊少年。 小柄な少年がブランコの方に向かうのを見てため息をつきながら、ナギはベンチに座り込んだ。 「なんでこう子どもっていうのは無駄な問答が好きなのか、理解に苦しむ」 「いいじゃないですか。一緒に遊んでくれる人がいるっていうのは嬉しいものですよ」 父親は無職で家に金一つ入れないプー太郎、母親は借金してでも銀玉弾く賭博狂いという親を持つハヤテが言うと重く感じる言葉である。 そういうものか、とナギは呟いてハヤテの方を見た。 「それにしても、これから二人になれる時間だというのになぜお前はそう厄介事を背負い込むのだ。お人よしにもほどがあるぞ」 「……面目ありません。ただ、執行委員のみなさんにもお世話になってますし」 と言いながらちょっと回想してみるハヤテ。 『えぇぇぇぇっ!? ちょ、ちょっと待ってくださいよノーチェさんっ!? 僕、これからお仕事あるんですよっ!? お嬢さまのお世話をして、お嬢さまのお部屋の片付けをして、お嬢さまのお取り寄せ品を取りに行って……』 『別に仕事するなとは言ってないでありますよ。ちょっとお世話する対象を増やしてくれればそれで無問題』 『どこのカード式パワーアップ術を会得した耳長モンスターですか!?』 『いやほら、そろそろわたくしも執行部のマスコット的存在として定着していこうかと』 『マスコットっていうのはもっと何もできない奴のことを指すと思うんだが、どうだノーチェ』 『なるほど、さすがは漫画馬鹿お嬢さま。的確なアドバイス痛みいるでありますよ』 『やめてくださいね? ノーチェさんに役立たずになられると一番にしわ寄せくるの私なんですからね?』 『初春、目が、目が笑ってないでありますよ。ジョークでありますともえぇイタリアンジョーク!』 マスコット論について語ること5分。 『……で、なんでマスコットについて話してるんでありましたかわたくしたち』 『いやいやいやいや。もともとマスコットじゃなくて柊(6)さんを僕に預ける預けないの話だったはずですけど』 『馬鹿、言わなきゃうやむやに済ませられただろう!』 『も、申し訳ありませんお嬢さま。どうもこう、ツッコミの血が……』 『ハヤテ殿も結構天然ボケの類だと思うでござるがなぁ』 『長瀬さんが言いますか』 『そもそもツッコミって常識人がやるものでしょう。時速80km の車に自転車で追いつける人を常識人とは認めませんよ』 『そういう人は両さんっていうんだよ』 『両さんは固有名詞です。人を形容する時には使いません』 『待て、超人の中にだって常識を持ったツッコミ役はいるんだぞ! その定義はおかしいに決まっている!』 ボケとツッコミについて語ること10分。 『なんで私たち最新のお笑い事情について話してるんだっけ……?』 『誰かが滑らない話について話しだしたあたりからおかしくなった気がするのでありますが……』 『だから、どうやって綾崎さんに柊(6)さんを押しつけるかって話をしてたんですってば』 『今押しつけるってっ。押しつけるって言いましたよね初春さん』 『うわ。何ッスかこの面白い生き物』 『あ、いらっしゃいベホイミさーん』 『僕のツッコミはスルーですか初春さん』 『ハヤテにーちゃん、このにほんじんっぽいかんじのねーちゃんもハヤテにーちゃんのしりあいか?』 『髪の色と目の色で日本人かそうでないかを判断しちゃいけませんよ柊さん』 『アンタが言うな』 ベホイミに状況を説明すること15分。 『なるほど。柊(6)さんをどうやればハヤテさんに預かってもらえるかで話してたと』 『そうであります。もうハヤテってば頑固ちゃんで弱っていたところでありますよ』 『実際は話がすごい色んなところに飛んでっててまともに話ができてないだけだけどねー』 『もう僕のツッコミは届かないんですかねー』 『ハヤテにーちゃんげんきだせ?』 『うぅぅ……柊さん、原因はあなたですがお気遣いありがとうございますと言わせてください』 『それならみなさん、こんな言葉はご存知でないッスか? 「将を射んとすればまず馬から」って』 『まず馬から……というよりも馬を落とすにはまず将からって感じだと思いますが。まぁ悪くない案ですねェ』 『え。ま、待て。なぜみんなして私を取り囲むのだ?』 『お、お嬢さま―――っ!?』 ナギお嬢さまをなだめすかしてお話すること20分。 『ほ、ほんとにそう思うか?』 『えぇ。綾崎さんとの新婚生活のためにも、子どものあしらいを覚えるのは大事だと思うんですよ』 『そ、そうだな……ハヤテも家庭的な娘の方が好きかもしれん。うむわかった! あの子どものことは私たちに任せておくがいい!』 回想終了。 「……どっちかっていうと、お嬢さまの決定だったような気もするのですが」 「うぅっ……!? う、うるさい! そもそもお前があれを届けようと言い出したのが原因だろう。ならば責任を持つのは主として当然のつとめだ」 ふん、とそっぽを向くナギ。こうなると彼女は自分の非をなんとしてでも認めないので、問答は早めに切り上げるに限る。 そのことはハヤテもとうに分かっていることなため、彼は素直に思ったことをたずねた。 「そういえば、お嬢さまは今の柊さんを気に入っておられるようですが。 以前紹介した時はあまり好意的ではなかったようにお見受けしましたけど……」 実は柊とナギは、以前ハヤテの紹介で会ったことがある。 ある学校同士の派手なケンカに巻き込まれたハヤテが執行委員に協力して事件解決にあたった際、包帯まみれの彼を柊が三千院家別荘に送り届けたことがあったのだ。 その時にハヤテの紹介で顔を合わせてはいるものの、大事な執事が知らない内にケガをして帰ってきたのだ、ナギがかんしゃくを起こさないわけもない。 結果、柊はナギの説教(というか罵倒)を30分ほど受け、二度と来るなこの無能とまで言われている。 一応言っておくがナギはまだ13歳であり、自分の観点でいうところの恋人枠にハヤテがいることもあいまって、少し過激な物言いになったのだ。 後になって本人も自覚したのか、あのプライドがチョモランマ並みの高さを誇るナギが、ハヤテを通じて柊に少し言い過ぎたと謝罪の旨も伝えている。 とはいえ、三千院ナギは確実にハヤテを事件に巻き込んでいる象徴として柊蓮司を敬遠している。 どちらかというと、ハヤテと一緒にいる時間を削ぐ存在として嫌っているはずである。 だからこそ、ハヤテはナギが柊少年を受け入れると言った時に驚いたのだった。 不思議そうにたずねるハヤテに、彼女は胸を張って答えた。 「何を言っているのだ。大きくなれば可愛げなど欠片もないが、今ならば見ていてかわいいものだろう。 それに、あの大男を見下ろすチャンスなんてきっとこれから先ないぞっ!」 「あぁ、つまり小さい柊さんには何の罪もないと」 「うむ。……それに、ハヤテの話を後から聞いたところによると、アレはハヤテの危機を救ってくれたこともあったと言うではないか。 執事の危機を救ってくれた礼をするのは、主として当然のことだろう」 「お嬢さま……そんな深遠なお考えがあるとは存じませんでした」 「私にだって考えくらいある。まったく、人を勢いと反射だけで生きている馬鹿と一緒にするな」 ふん、と言いながらナギはそっぽを向いて―――目に入った光景に疑問を抱く。 「なぁ、ハヤテ」 「なんでしょうお嬢さま。はじめてお嬢さまのお部屋に行った時にホワイトタイガー猫のタマを見た僕のような表情をなさって、何か危険なものでも見つけられましたか?」 「いや……私はこういった場所で子どもが遊んでいるところを見たことがないから、この光景は普通のものなのかとたずねようと思ったのだが」 そう言って彼女が指すのはブランコ。 ハヤテもそちらをつられて見る。 そこには、楽しそうにブランコを漕ぐ柊少年がいる。 ……漕ぎすぎて今にも一回転しそうなくらいに勢いがつき、角度にして160°くらいの高さまで上がったブランコで遊んでいる柊少年が。 って、普通なわけないじゃないですかーっ!? と叫びながらハヤテがそっちに走っていくのをみながら、そうなのか、とナギは納得する。 ちょうどその時携帯が着信を告げたのを感じて、彼女は携帯を手にとった。 表示は知人のものであり、珍しいなと思いながら通話ボタンを押す。 「この電話は現在使われておりませんので諦めて切れた後に伝書鳩でも飛ば―――」 『何バカなこと言ってるのよナギっ。無事なのっ!?』 電話のスピーカーから響くのは、当然というべきか液晶に表示された知人のもの。 あまりに勢い込んで放たれた大きな声に、ナギが一瞬眉をしかめる。 「……そんなに大声を出さなくても聞こえている。というか、お前は私の鼓膜を破る気なのか?」 ナギの不機嫌そうなその声を聞いて、しかし相手は落ち着いたようにため息をついた。 『よかった、元気そうね』 「勝手に電話をかけてきて大声を出したあげく勝手に納得するなよ。なんのつもりなんだ、ヒナギク」 呆れたように電話の向こうの少女に向けて告げるナギ。 桂 ヒナギク(かつら ひなぎく)。ちなみに漢字表記だと雛菊らしいが原作表記以下略。 白皇学院最強の生徒会長にして、知力・体力・美貌・求心力の全てを備えた完璧超人ツンデレ負けず嫌い男前委員長さんである。 そんなヒナギクは、ナギの不機嫌そうな声に反応してかひとつため息をつくと答えた。 『今極生の大会議場で定例会議があるから来てるんだけど、そこで芝村さんと美里さんから聞いたの。 学院近くの公道に今日の放課後上空から何かが落ちてきて大きなクレーターを作ったことと、その時刻に付近であなたとハヤテ君を見たっていう証言があるって話。 それ今聞いて、無事を確認しようと思って連絡したってわけ。ハヤテ君はこの間携帯壊したってぼやいてたからあなたに連絡をとったのよ。 一応確認するけど、あなたもハヤテ君もちゃんと無事なのよね?』 「あぁ無事だ。ケガなどはしていないし、ヒナギクが心配するようなことはにはなっていない。安心したな? では切るぞ」 そうナギがつまらなそうに言って電話を切ろうとしたとき、そうだ、と何かに気づいたようにヒナギクが呟いた。 『ねぇナギ。時間があるならちょっと参考までに聞きたいことがあるんだけど、問題ない?』 「確かに切羽詰っているような状況ではないが……お前が私に質問など珍しいな。何かあったのか?」 ヒナギクは先も述べたように非常な才媛であり、頭の良さならナギに引けをとることはない。 しかもヒナギクは努力家でもあるため、わからないことがあるのならば自力で調べることも多い。 そんな彼女が誰かに頼ることは数少なく、しかも生徒会役員でもない上に年下のナギに頼ろうとすることはほとんどないと言っていい。 これまでされたことのなかった質問に、いい気になる前に不思議そうに聞き返したナギ。そんな彼女に、困ったようにヒナギクは答えた。 『あなた、ハヤテ君のご主人様よね』 「なんだ? 私がハヤテの主人では不満だと言いたいのか?」 『そうじゃなくて。ハヤテ君も割とワーカーホリックなところがあるでしょう? 極上生徒会関連の下部組織でなかなか休みを取ってくれない人がいて、その人にどうやって休みを与えたらいいかって話が議題に上がってるのよ。 自分の下で同年代の人を働かせてる雇用主で、その上休みをとることに関しては学院でも1、2を争うあなたならどうしたら休ませられるか妙案を持ってるかも―――』 「バカにしてるなら切るぞっ!?」 『でも、否定できないでしょ?』 ぐ、とうめくナギ。 事実ナギは学校にあまり行こうとしない。 それは彼女が幼少期に外に出ては命を狙われたために外に出なくなったことや、頭がとんでもなくいいために学校の授業式の勉強を必要ないものとして考えていることなどが理由でもあるのだが、前者は今ではハヤテがいるし、後者は単なるワガママである。 さすがに言い過ぎたと思ったのか、ヒナギクが乾いた笑い声を上げながら言う。 『まぁちょっと言い過ぎたけど……ともかく、私はどう休ませればいいのかもイメージつかないのよ』 「それはお前もワーカーホリックだからだ」 『べ、別にいいでしょ私のことはっ! ナギ、あなたなら仕事しすぎだと思う人を、どう休ませればいいと思う?』 ごまかすように言ったヒナギクに、一つため息をついてナギは腰に手をあてて語りだす。 「いいかヒナギク。休暇というものは仕事の能率を上げるために必要なものなのだ。 仕事しっぱなしでは疲労の蓄積、慣れによる油断など、様々な要因により思わぬミスをすることも多くなる」 『え、えぇ。少しくらいは聞いたことはあるわね』 「だからな? 私もいい仕事をするために学校を休んでいるのであって……」 『……あなたの言ういい仕事って漫画描くことでしょう。学校を休む言い訳はいいわよ別に』 「なっ、ち、違うぞっ!? 確かに話はちょっと脱線したが、本番はここからだ! いいかっ? どんな人間にだってミスはある。それをいかに少なくするかを考えたり、してしまった後のフォローを考えることでミスのない仕事は成り立つのだ」 『まぁ、そうね』 「ただし、それも適度な休息をとっていればフォローが可能なのであって、疲労が蓄積した状態ではフォローしきれない事態も起きる」 そこで発言を止めるナギ。頭のいいヒナギクならばこの程度のヒントがあれば充分だろうと思ったのだ。 電話の向こうもしばらく静かになったあと、はぁっと息を吐く音がした。 『……なるほど。裏返せ、ってこと。さすがナギ。休むことにかけては真剣ね』 「む……いや、まぁハヤテに暇をやったことがあってな。 その度にあいつはそうたずねてくるから逆転の発想というか、むしろもう屋敷に入ってくるなくらいの勢いでないと休まないというか……」 『ありがとうナギ、参考にさせてもらうわ』 「用はそれだけか?」 『そうね。あ、それからもう一つ』 ヒナギクはそう言うと、くすりと笑って一言だけ告げた。 『また月曜に学校でね、ナギ。それじゃ』 ぷつりと途切れる電話。 ヒナギクの置き土産に、ナギは不機嫌の色をあらわにする。 先も述べたとおり、ナギは学校にあまり自発的に行きたがらない。 それは学校にいくよりも屋敷で何かしている方がよほど楽しいという実に子ども染みた理由からなわけであるが、『学園世界』に来てからは多少学校を休む頻度が減った。 学園世界にいる彼女の従者がハヤテ一人であるということがその理由である。 ハヤテも白皇学院に通う学生である。 しかしハヤテにとっては学業よりもナギの身の安全の方が心配すべきことなのだ。 だからこそ、彼は学園世界に来た後は基本的にナギのそばを離れない生活を送っている。 しかしそれは、逆に言えばナギが学校を休めばハヤテも学校を休まなければならないということに他ならない。 ハヤテはナギとは少し出来が違うため、努力をほんの少し怠れば取り戻すのが難しい。 彼が学校に行こうと思う気持ちが強いことを知っているナギとしても、あまりその邪魔はしてやりたくないのだった。 ヒナギクのその言葉は、最近学校に来るようになったナギに釘を刺すためのものだろう。 ナギは携帯をたたんでしまいながら、ぼやく。 「まったく明日からデビルサバ○バーをジ○ルートで全キャラ仲間にして○シファー戦こなしてジャ○クフロストをリーダーにしてクリアしようとしてたのに」 「な、なかなかマゾい攻略のご予定だったのですねお嬢さま……」 頭の後ろにたんこぶを作って帰ってきたハヤテが、汗を浮かべながら彼女のぼやきに言葉をかけた。 ナギはそちらに気づくとあわててたずねる。 「い、いたのかハヤテっ!? ご苦労だったな、問題はなかったか?」 「いやぁ、満面の笑顔でこちらに手を振った時は本当に肝を冷やしましたよ……。 その後手が離れたことで綺麗にブランコからすぽーんと柊さんが打ち出されたので、なんとか空中でキャッチしたんですよ。 厳重に説得した後、納得していただいたのか、今は鉄棒で遊んでますね」 「そうか。子どもは元気なのが一番とは聞いていたが、元気すぎるのも考えものなのだな」 「元気の範疇なんですか、あれ」 「父親の絵画詐欺に加担するよりはよほど元気がいいと言え……」 「ですからあれは僕に罪の意識はなかったんですってばっ!?」 年端もいかない子どもに詐欺の片棒担がせた親が悪いです。 閑話休題。 そんなことより、とハヤテが聞く。 「お嬢さま、どなたとお話なさってたんですか?」 「ん? あぁ、ヒナギクの奴から連絡があってな。極生の会議場で、学院近く謎の落下物の話を聞いて連絡してきたのだ」 「なるほど。さすがヒナギクさんですねー」 ハヤテとしては敏腕生徒会長としてのヒナギクを誉めているのであるが、目の前で自分以外の女を誉められたナギとしては面白くないわけで。 彼女は不機嫌を隠すこともせずに刺々しい口調で告げる。 「……ふん。こんなつまらない報告なんかを主にさせるなよ」 「えぇっ!? あ、ぅ。も、申し訳ありませんお嬢さま。この間携帯電話を壊してしまったもので……」 「買えばいいだろう、新しいの。そんなこともできんのかお前は」 「い、いえ。新しいものを買いに行くにしても、お嬢さまと離れるわけにはまいりませんので今日か明日にでも一緒に行っていただければと考えていたんですが……」 困ったような笑顔でそう言ったハヤテ。 一緒に、という言葉を聞いたナギに激震走る! ……激震はまぁ置いておくとしても、ナギにとってはちょっとした衝撃だった。 学園世界に来てからというもの、ただでさえハヤテと四六時中一緒にいることの多くなったナギ。 しかし、それでも生活の大半は別荘や学校であり、いわば刺激的な体験というものはあまり体験していない。 それも外へ出かけるのがハヤテからのお誘いとなれば、それはもはや彼女にとってはデートのお誘いも同然なのである。 結果、先ほどまで刺々しかった視線が一瞬にしてふにゃりと緩んでしまうほどにはとんでもない衝撃を受けたナギは、顔を真っ赤にしてたずねた。 「い、いいいいい一緒に、かっ!? ふ、二人きりでかっ!?」 「え? え、えぇ。そのつもりでしたが……他にどなたか一緒に行きたい方でもいらっしゃいましたらお呼びしますよ?」 「い、いやいらんっ。は、ハヤテは私の執事なのだっ、私が面倒を見てやらんでどうするのだ!」 顔を真っ赤にしたままそう言って、彼女はそっぽを向く。 ハヤテはといえば許可がでたことを素直に喜んで、その後顔を曇らせた。 「あ、ありがとうございます。でも……」 「で、でもなんだっ!? 何かマズいことでもあるのかっ!?」 「いえ……今の僕たちは柊さんの面倒も見なきゃいけない立場なので、それが終わらないことにはどうにも……」 The ☆墓穴。 柊少年を預かると言ってしまったのはナギであるため、追い出すわけにもいかない。 ずーん、という擬音を背負いながら膝に手をつくナギに、ハヤテは曖昧に笑って言った。 「ま、まぁ執行委員の皆さんも柊さんがいないと困るでしょうし、真剣に考えてくれると思いますよ」 「……飛行物体共は戻らない方がいいと言っていたぞ」 「あ……あー、まぁ見てて面白い方から見ればそうでしょうけど。 実際に機能として見るとあの人が働かないのは困りますから、そんなに時間かからないうちに戻るはずですよ」 そうか、とナギが頷いたのを見て、ハヤテは話題を逸らしにかかる。 「と、ところでお嬢さま。軽食をお持ちしましたがいかがしますか?」 「うむ。今日はなにを用意してくれたのだ?」 「チキンのバジルソースと、タラモサラダ、それから卵のサンドウィッチをご用意いたしました。お茶はセイロンのストレートを……」 お持ちしました、と言おうとして肩にかけて持ってきたはずの水筒を探すがどこにも見当たらない。 おかしいなと思って、公園に来てバスケットと水筒を置いたはずの場所を見る。 そこにはバスケットと―――何故か水を入れる形のダンベルに紐を括りつけたようなものがあった。 目を点にしつつそれを凝視していたハヤテが、ダンベルに紙が張ってあることに気づく。 その紙をひっぺがし、まじまじとそこに書いてある文字を見る。 そこには意外と綺麗な文字で一筆添えられてあった。曰く 『―――おいしそうなお茶だったので、有希のところに持ってくお土産にさせていただくでありますよ かしこ のーちぇ』 とのこと。 ハヤテはその紙を見てぷるぷる震えていたものの、心の底より湧き上がってくる気持ちを吐き出した。 「なんで自分の名前はひらがなで書くんですか……っ!?」 「ツッコミどころはそこじゃないだろう。かしこつけるなら前に前略つけろとか、そもそも持っていくなとか。咲が聞いたらハリセンが飛ぶぞ」 ちなみに咲(さく)というのは愛沢咲夜(あいざわ さくや)のことであり、三千院家の親戚筋である愛沢家の長女であり、ナギの姉貴分的な存在の同い年の少女である。 一言で表すなら『ステレオタイプな関西人のノリを持った姉御風お嬢さま』。 生ぬるいツッコミは許さない信念を持った彼女がここにいれば、容赦のないハリセンツッコミが入ったことだろう。 ともあれ、ハヤテはお嬢さまにお出しするお茶を持ってき忘れたことになる。 後でノーチェにはいくらでもお説教できるが、ナギに出すものが欠けているという事態は非常にマズいと判断した。 ハヤテは慌てつつもナギに向けて背を向けながら駆け出す。 「申し訳ありませんお嬢さま! 何かお飲み物を調達して参りますが、何がよろしいですか?」 「乳酸菌をとりたい気分だからそれでよろしくー」 「かしこまりましたっ! では!」 ナギに返事を返すと、彼は大地を踏み抜き一足で四間を詰める勢いで駆け出す。 さすがは時速80㎞の車にママチャリで追いつく男。足腰もすでにウィザード級なんじゃなかろうか。 そんな彼を見送りながら、ナギは置いていかれたバスケットを手繰り寄せ、ハヤテが戻ってくるまで彼の愛妻(違)弁当を眺めようとバスケットを開く。 バスケットの中にはあるのはハヤテ渾身の(東棟給湯室で作った)サンドウィッチがぎっしりと詰まっている。 三千院家執事厳選のもっちり食パン。 ふわふわの食感を残したままの絶妙な火加減の炒り卵に、表面をむいたキュウリ、チーズとレタスを挟んだもの。 軽く火の通された鶏肉に鮮やかな緑色のバジルソースをまとわせ、スライスして辛味を抜いた玉ねぎを挟んだもの。 ゆでたてのジャガイモを食感を少し残したまま潰し、たらことマヨネーズで和えて輪切りにしたオリーブを挟んだもの。 黄・青・赤・白の彩りも鮮やかなハヤテのサンドウィッチを見て、嬉しそうに笑って。 そこで彼女は視線に気がついた。 いつの間にか近くまでやってきたらしいところどころ汚れた格好の柊少年が、もの欲しそうにそのバスケットをじーっと見つめている。 少年はそれはもう穴があくほどじーっと見つめている。ナギのことなど眼中にないくらいじっと熱烈に。 ナギが試しにバスケットを両手で持ち上げて右に持っていけば、視線がそちらに動き、左に持っていけばそちらへと追いかけるように続く。 年下の子どもの視線でしばらく遊んでから、彼女はもう一度バスケットをベンチの上に戻し、少年にたずねる。 「……ほしいのか?」 その問いに、少年は言葉すら出さずにこくんと首を縦に振る。 この年頃の子どもにしては何も言わずに奪い取らないだけ行儀がいいと言うべきかもしれない。 が、ナギにとってはせっかくハヤテが自分のために作ってくれた愛妻(だから違)弁当である。諸般の事情により預かることになった子どもに分けてやる道理はない。 ないのではあるが。 待てをくらった犬のようにじーっとバスケットに熱い視線を送り続けている柊少年に、ナギの良心と保護欲のようなものが働きだす。 そんな子犬のような目で見るなー! と内心では叫びだしたい気持ちでいっぱいなのだ。もっとも彼が見ているのはサンドウィッチの方だが。 ハヤテが自分のために作ってくれたものであるという矜持と、雨に濡れた子犬のような目で見られるくらいなら保護したいという庇護心。 2つの心が葛藤を起こして非常なジレンマにおちいるナギ。 しばらくうんうんうなっていたものの、やがて彼女はえぇい、と迷いを断ち切るように大きな声を上げて、ふんと鼻を鳴らした。 「さっきまで遊んでいたのだ、どろどろに汚れている手で食事などさせられるか! 食べたいのならさっさと手を洗ってこい、馬鹿者!」 結局は、ナギも思いやりのある優しい女の子なのだった。だいぶパッと見分かり辛いが。 言われた柊少年は、ぱっと表情を明るくさせた。 「ありがと、ナギねーちゃん!」 「水道はあっちだぞ。ちゃんと綺麗に洗えよ」 おうっ! と言って元気よく駆け出していく少年の背中を見ながら、ナギは一つため息。 自分よりも年下の子どもは扱いづらい。しかもなんか素直だし。すれてないし。言うこと簡単に聞くし。と、内心でぼやくナギ。 この場所がナギのホームグラウンドである漫画の棚の山のある自室やゲーム部屋やDVD部屋や書斎ではないというのが調子を狂わせているのかもしれない。 ……もしも柊少年を遊ばせることを口実にナギを外に連れ出そうとハヤテが考えなければ、別荘の中で初代ガンダム全話とかデジモン映画版行脚になりかねなかった。 えらいぞハヤテ、すごいぞハヤテ、本当にありがとうハヤテ。 閑話休題。 ナギとしては、年下の子どもと一緒に遊んだことはあっても面倒を見たことはない。 お姉様、や隊長、と呼ばせたことはあっても自発的にねーちゃん、と呼ばれたことはない。 彼女にとっての柊少年との話は、本当に手のかかる兄弟ができたかのような錯覚を起こすものだったのだ。 そのことに、なんだかむずがゆい感情を持て余しているナギであった。 ← Prev Next →
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立ち止まるヒマなんかないさ ◆L9juq0uMuo 「つまりそのピエロとフェイスレスってお爺さんは乗ってるって事か」 早朝の繁華街を歩きながら、武藤カズキ、綾崎ハヤテ、泉こなたの三人はそれぞれ情報交換をしていた。 「ああ、ピエロの格好をした女の人は今一確信が持てないけど、フェイスレスの方は確実に乗ってる」 高笑いを浮かべる老人と、闇に消えた道化師がカズキの脳裏に浮かび上がる。 「俺が会ったのはその二人だけだから、悪いけど二人の探してる人達は見てないんだ」 カズキは心底申し訳なさそうに頭を垂れる。 「そんなに気に病まないでください。僕達が探している人達も、きっとカズキさんみたいな人達と一緒にいると思います」 そうは言っても、ハヤテの不安は尽きなかった。 最初にホールでメイドの少女の首輪が爆発した時に飛び出した白い服の男性や、カズキの仲間であるC・ブラボー、そして津村斗貴子のように、この殺し合いに乗らず、かつ何の力も持たない人を助けて回ってる人も少なくはないだろう。 しかし、拳王や勇次郎と呼ばれていた人間のような危険な人種も相当数参加している筈である。いや、このような殺し合いの場なのだからそのような人種の方が多いかもしれない。 ハヤテの恩人である三千院ナギや友人であるヒナギクや同僚のマリア、同行者のこなたの友人は非力な少女なのである。そのような人種に襲われたらひとたまりもないだろう。 もし、お嬢様に何かあったら―、ハヤテの脳裏にピエロの投げる無数のナイフに貫かれたナギの姿が浮かび、慌ててそれを脳内から掻き消した。 「しかし、錬金術に人造人間か、まさか本当に存在しているとは思わなかったなー」 まるで、新しい玩具を見つけた子供のようにこなたははしゃいでいる。 「ああ、俺も信じられなかったさ。でも現に実在していた。ニュースで見ただろうけど銀成市の集団失踪事件や世界各国で動物が倒れる事件も原因はそれなんだ」 そのカズキの発言にハヤテとこなたは不思議そうに首をかしげる。 「銀成市の集団失踪事件に世界各国で動物が倒れる事件?そんなニュースありましたっけ?」 「うーん、私はあまりニュースは見ないけど、そんな事件があったら、かがみかつかさ辺りが言ってるだろうし、第一、そんな不思議な事件があったら私も覚えている筈だけど……」 二人の発言にカズキが戸惑う。カズキは件の事件のニュースを見ている。しかも片方には街頭インタビューで自分も出ていた。それを二人は知らないと言うのである。 「……と言うか僕の知る限り、埼玉県に銀成市という場所自体が無かった筈ですが……」 ハヤテとこなたの発言にカズキの顔が驚愕に染まる。 「そんな筈はない!実際俺は銀成市にある銀成学園の高校二年生で、俺や俺の友達は銀成市で暮らしているんだ!」 「ぼ、僕も武藤さんが嘘をついているなんて事は思っていません。ただ、少なくとも僕の知る限り、埼玉には銀成市という場所は……」 銀成市という一つの町の存在から生じたお互いのズレにカズキとハヤテは混乱する。その時、話し合いに参加せず、ある一点を見ていたこなたが口を開いた。 「ねえ、カズキ。カズキの知り合いの蝶野……この名簿でいう蝶野攻爵、パピヨンって奴は黒いぴっちりした服に蝶々の仮面をつけてるんだよね?」 「え?あ、ああ……」 「それってあんなの?」 こなたが指差す方向をカズキとハヤテが見る。するとそこには、悠々と道路を歩く一人の影。その姿は黒いぴっちりとした服に蝶々の仮面。そしてそれに追従するピンク色の小さい物体。 「蝶野……?それにあれは……」 「おお!やっぱりカズキンじゃねーか!」 嬉しそうにそのピンク色の物体、エンゼル御前が一足先にカズキの前にやってくる。 「やっぱり御前様か!あれ、でも桜花先輩は……」 「やぁ武藤。元気そうで何よりだ」 御前に一足遅れて、パピヨンがカズキの前に立つ。 「ま、俺との決着はまだついていないんだ。こんなところでくたばってもらっても困るんだがな」 そのパピヨンの発言にカズキは怪訝な表情を浮かべる。 「決着……?決着はもうつけた筈だ。俺が月から帰ってきた直後に」 カズキの発言に今度はパピヨンが眉を顰める。 「月から帰ってきた?何の話だ?」 「おいおい、何言ってるんだよパッピー。カズキンの言うとおり決着はもう着いたじゃねーか」 エンゼル御前の発言を聞き、パピヨンは少し考え込む。 「……どうやら俺とお前達の間で何か食い違いが起きているようだな。核鉄に関しても不可解な点がある。少し話をしたいんだがいいか?」 「俺は別に構わないけど……」 そう言うとカズキは先程まで蚊帳の外だった二人へと視線を向ける。 「僕は構いませんよ、僕の方からも聞きたい事はありますし」 「うん、私も別に構わないよ」 快く返事をしてくれた二人にカズキが頭を下げ、礼を言った後、カズキ達はハヤテ、こなたの簡単な自己紹介をすませ、近くの喫茶店へと入っていった。 普段ならば静かな曲が流れ、ゆったりとやすらぎが支配しているであろうその空間は、静寂だけが支配していた。 そして一つのテーブルに各々が座り、情報整理が始まった 「まずは、二、三質問に答えてもらい、俺とお前の食い違いから解消するとしよう。と、いっても、これはお前が言っている事が正しいのなら、すんなりと解けそうではあるがな」 背もたれに寄りかかりながら、パピヨンが続ける 「お前の知っている俺は、お前の頼みを聞き、ヴィクターとの決戦の前に、人口冬眠専用のフラスコを完成させたか?」 「……ああ、そして俺は斗貴子さんといっしょにヴィクターに白い核鉄を埋め込んだ。でも白い核鉄一つじゃヴィクターを完全に戻す事はできなくて、俺は一人でヴィクターを月へて連れて行った。最後はヴィクターの協力もあって地球に戻れたけどな」 「そしてその後、俺との決着をつけた。と言う事か」 その後、パピヨンは、蝶野邸での自分とカズキの戦いの過程から結末、そして再殺部隊との戦いの経緯について質問する。 「ふむ、どうやら食い違いがあるのは人口冬眠専用フラスコが完成した後から、と言うことになるか……」 うんうんと、パピヨンは一人で納得する。 「あくまで仮定ではあるが、ここにいる俺とお前は、この殺し合いの場に違う時間から呼び出された可能性がある」 「違う時間だって?」 「ああ、俺はヴィクターとの決戦時に、気づいたらここにいた。つまり、俺はお前の言う結末を体験はしていないと言う事だ。 お前の性格、そして御前の発言からしてもお前が嘘をついている可能性はほとんど0。 ならば残る可能性は記憶操作をされているか、お前と御前が俺が知るより未来の世界から連れてこられたか、だ」 「未来から連れて来られた?そんな……」 その時、カズキの脳裏に先ほどのハヤテとの会話が浮かび上がる。 「どうやら、お前も心当たりがあるらしいな」 「実は……」 カズキは、銀成市で起きた一連の事件、そして銀成市自体がハヤテとこなたの記憶に存在していない事をパピヨンに伝える。 「銀成市が存在しない、か……ならば更に可能性が高くなった。いや、俺がさっき言った仮定を上回る結果になるかもしれん」 そう言いながらパピヨンはハヤテとこなたの方を向く。 「そっちのこなたとかいう女に着いてはどこにでもいる一市民である事から俺達の知っている世界との差異はわからんが、そこのハヤテとかいう女の使えている三千院家、それは俺達の知る世界に存在しない」 その発言にハヤテが目を見開く。 「で、でも僕は確かに……」 ハヤテが何事か言おうとするのを、パピヨンが遮る。 「これでも俺は人間の頃はそこそこの名家の出なんでな。お前の言う三千院家が実在していたら俺が知らない筈は無い。つまり―」 「ハヤテの世界と、カズキ達の世界は別々に存在する可能性があり、この殺し合いの主催者はその別々の世界及び時間軸から私たちをこの場に呼び出した。ってこと?」 パピヨンの言葉を引き継ぎ発言したこなたに一同の視線が集まる。 「……その通り、中々頭が回るじゃないか」 「いやー、想像力はそれなりに豊かなもので」 意外そうに自分を見るパピヨンにこなたは頭をぽりぽりと掻きながら答える。 こなたは一般人の感性とは少しズレている。しかし、ズレているからこそ、その常識的には考えられない結論にいち早くとたどり着き、すんなりと受け入れたのだった。 「まあその女が言った事だとあそこに呼び寄せられた多種多様な参加者や今までの食い違いも辻褄が合う。もっとも記憶操作されているという可能性もまだ残ってはいるが、な。 拳王やら勇次郎やらいう奴や俺をあの場に呼び出し、この変な首輪を作る技術力を持っているんだ。記憶操作くらい訳はないだろう」 パピヨンがそう言って、ひとまずその議論には一応の決着は着いた。 「しかし、にわかには信じられねーよなー」 ふよふよとパピヨンの周囲を浮かぶエンゼル御前を見て、カズキは御前と遭遇した時に感じた疑問が再び浮かび上がった。 「蝶野、御前様がいるって事は桜花先輩もどこかにいるのか?」 「いや、あいつは参加していない。どうやら核鉄にも何らかの制限がかかっていて、アナザータイプができなくなっている。つまり武装錬金は固定されているらしい。 ちなみこれは俺が工業団地で会ったちっこい女から貰いうけた。先に行っておくが殺しちゃいないし怪我も負わせていないから安心しろ」 「ちっこい女……」 パピヨンの言う『ちっこい女』、ハヤテの脳裏に否が応にも自分の主人の姿が浮かぶ。 「すいません蝶野さん!その女の人って……」 そこまで言ってハヤテの言葉は、敵意を込めてこちらを睨むパピヨンにより中断させられる。濁りきったドブ川のような目が怒りの感情を露にしている。 「……一つ忠告しおく。俺をその名で呼んでいいのは武藤だけだ、例外は無い」 「蝶野!!」 カズキが嗜めるように叫ぶと、ジロリ、とカズキを一瞥した後、溜息を吐き、パピヨンの表情が通常のそれへと戻る。 「で、何が聞きたい?」 ハヤテは先ほどの剣幕に気圧されながらも、おずおずと尋ねる。 「そのちっこい女の子はナギって呼ばれてませんでしたか?」 その問いにパピヨンは自分の記憶を掘り起こす。 「確か、一緒にいたジョジョとかいう奴にそう呼ばれていたな」 「本当ですか!?」 探していた主の情報にハヤテは思わず身を乗り出した。その後ろでカズキの顔が段々と深刻な物になっていく。 「……蝶野、工業団地って言ったよな」 「ああ、言ったが、どうかしたか?」 カズキは「そうか」とだけ呟いて自分のデイパックを担ぐ。 「悪い皆、ちょっと行ってくる」 カズキは知っている、あの道化師が消えた場所を、そしてその先に見えた工業団地を。 「あそこには乗ってるかもしれない奴がいる。だから手遅れにならない内に助けに行く。蝶野、その間二人を……」 「NON、嫌だね」 カズキの頼みを最後まで聞かずに、パピヨンは指で×を作りカズキの頼みを断る。 「おいパッピー!そんな事言ってる場合じゃ……」 エンゼル御前の抗議を無視し、パピヨンが続ける。 「俺がそんな事を頼まれてYESというと思ったか武藤。こういうときはギブ・アンド・テイクだ。違うか?」 「……わかった。で、条件はなんだ?」 逡巡の後、首を縦に振ったカズキに、パピヨンは満面の笑顔で答える。 「俺がニアデスハピネスを手に入れ次第、俺と戦え。そうすればお前の頼みも受けよう。お前は決着をつけただろうが、俺はまだつけてはいないんでな」 「……わかった。それで二人を守ってくれるんだな?」 まっすぐ自分を見つめるカズキにパピヨンの顔は更に喜色を強める。 「交渉成立、だな」 「ま、待ってください」 大声と共にハヤテが立ち上がる。 「僕も、僕も連れて行ってください!」 キッ、とハヤテがカズキを見据える。 「駄目だ、ハヤテはこなたとここで他の知り合いが来るのを待つんだ」 女の子をあんな危険な場所には連れて行けない。そう思いカズキは強く反対する。 「大丈夫です。これでも鍛えてますし、武器も扱えます、足手まといにはなりません。それに……」 ハヤテが一呼吸着く、改めてカズキを見つめ、続ける。 「お嬢様は僕の命の恩人です。だから、何があろうと僕はお嬢様をお守りしなければいけないんです」 自分を見るハヤテの目を見てカズキは気づく。ハヤテも自分やブラボー、斗貴子さんと同じ強い信念の持ち主だと。しばらくの間睨み合いが続き、そして、カズキが折れた。 「……わかった。でも危なくなったら逃げてくれ。それさえ守ってくれれば何も言わないよ」 「あ、ありがとうございます!」 深々とお辞儀をした後、ハヤテはこなたへと向き直る。 「すみません、こなたさん。こなたさんのお友達も探さなきゃいけないのに……」 「んー、まぁハヤテの大事な人の命がかかってるならしょうがないよ。それにかがみ達も人の多いこことかを目指してるかもしれないから大丈夫」 申し訳なさそうにしょげるハヤテの肩をこなたがぽんぽん、と叩いて元気つける。 そして、カズキとハヤテは自分のデイパックを担ぎ、喫茶店を出た。 「蝶野、こなたの事、頼んだぞ」 「お前こそ死ぬなよ、武藤」 「じゃあこなたさん、パピヨンさん、行ってきます」 「ん、そっちも気をつけて」 それぞれ思い思いに別れの言葉を述べ、カズキとハヤテは出発した。 「そう言えば色々あって言い忘れたんだけどさ」 二人を見送った後、思い出したように手をぽむ、と打ち、こなたがパピヨンを見る。 「何だ?」 「いや、会った時から思ってたんだけど随分といかした格好だなーって、どこで売ってるの?」 しげしげと興味深そうにパピヨンを見るこなたに対し、パピヨンは上機嫌な笑みを浮かべる。 「何だ。随分と話のわかる参加者もいたもんだな。だが生憎とこれは一蝶羅でな」 この二人はやはりどこかズレていた。 【D-3 喫茶店/1日目/早朝】 【パピヨン@武装錬金】 [状態]:全身に軽い打撲、口に血の跡、中度の疲労、ごきげん [装備]:エンゼル御前@武装錬金 [道具]:支給品一式、週刊少年ジャンプ@銀魂、んまい棒@銀魂、綾崎ハヤテの女装時の服@ハヤテのごとく [思考・状況] 1:武藤達が戻ってくるまでここで待機。こなたを守る 2:核鉄の謎を解く 3:二アデスハピネスを手に入れ、戻ってきた武藤と決着を着ける [備考] ※エンゼル御前は、使用者から十メートル以上離れられません。 それ以上離れると、自動的に核鉄に戻ります。 ※参戦時期はヴィクター戦、カズキに白い核鉄を渡した直後です 【D-3 喫茶店/1日目/早朝】 【泉こなた@らき☆すた】 [状態]:ごきげん [装備]:猫草inランドセル@ジョジョの奇妙な冒険 [道具]:支給品一式、フレイム・ボール@ゼロの使い魔(紙状態) [思考・状況] 1:エレガントな衣装だなぁ 2:パピヨンといっしょに二人の帰りを待つ 3:かがみ、つかさ、みゆきを探して携帯を借りて家に電話 [備考] ※猫草の『ストレイ・キャット』は、他の参加者のスタンドと同様に制限を受けているものと思われます 【D-3 道路/1日目/早朝】 【綾崎ハヤテ@ハヤテのごとく!】 [状態]健康。女装。 [装備].454カスール カスタムオート(7/7)@HELLSING [道具]支給品一式、執事服一式 13mm爆裂鉄鋼弾(35発)、ニードルナイフ(15本)@北斗の拳 [思考・状況] 1:ナギを見つけ合流する 2:ナギ、マリア、ヒナギクを一刻も早く探し出し合流する 3:出来るだけ多くの人を助けたい 【D-3 道路/1日目/早朝】 【武藤カズキ@武装錬金】 [状態]健康 [装備]サンライトハート@武装錬金 [道具]支給品一式 水分4/5 音響手榴弾・催涙手榴弾・黄燐手榴弾 [思考・状況] 基本:みんなを守ってみせる 1 ナギと見つけ合流する 2 ハヤテを守る 3 道化師の正体が気になるけど…… 4 フェイスレスの約束を守る 5 勝君とエレオノールに会ってみたい [備考] ※ハヤテの女装には気づいていません。 [共通備考] ※以下の事に気がつきました。 ※参加者は違う世界、違う時間から何らかの方法で拉致されてきたか、記憶を操作されている。 061 偽りの共闘 投下順 063 三千院ナギと素直じゃない仲間 061 偽りの共闘 時系列順 063 三千院ナギと素直じゃない仲間 034 変態!!俺? パピヨン 090 パピ☆すた 048 主のために♪ 泉こなた 090 パピ☆すた 048 主のために♪ 綾崎ハヤテ 086 漫画キャラバトルロワイアル特別編『SAGA』 048 主のために♪ 武藤カズキ 086 漫画キャラバトルロワイアル特別編『SAGA』
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走る執事、それは探し求める常識人 (しかし、迂闊に声を出していけない状況でどうお嬢様を探しだせば……) 執事、綾崎ハヤテは竹林を走りながらどう探すか考えていた。 ずっと走り続けてナギを見つける事などよっぽど運が良くないと無理だ。 だがハヤテは幸運どころか、不幸な目にしか遭わない不幸少年。 自分自身でもそれは過ぎた願いなのは見えていた。 こんな状況、殺し合いの中じゃ自分の身も危険。 お嬢様が第一優先であるものの、他の人もいれば―――……… ―――そう考えると非常に厄介事に巻き込まれたものだ。 声を出さずに、早急にナギお嬢様を探す。もし万が一の事があれば………。 その先は考える事が出来なかった。それはハヤテにとって怖すぎる事だったからだ。 借金返済も出来ず、お嬢様を守る事も出来ず―――それは即ち人生の終焉。 もうあの屋敷には戻れない。―――いや、探してまでこちらを殺しに来るかもしれない。 仲良かった人達も、すべてはお嬢様がいなければ出会っていなかった。 不幸過ぎるハヤテに光を差し伸べた存在―――それが死ぬ、という事が一番の恐怖であった。 すべては我がお嬢様が、生活を支えてくれていた。人生を支えてくれていた。 その柱が崩れた時―――ハヤテは自分がどうなってしまうのか、それも怖くて考えれない。 ただ今はお嬢様を、ナギを早く見つけて命懸けで守り通すしか道は無い。 そんなハヤテは、草むらを出来るだけ音を立てない様に移動する。 その辺りの気配りは出来る程度には自分は落ち着いている。 真夜中の竹林の中、月も見えないのに若干の明かりがどこからか空から射している。 射してなければ暗闇だ。でも若干見える景色に明かりがあるのは確か。 それを不思議がる時間は無く、ハヤテは視界の悪い竹林を落ち着いて駆ける。 執事服が幾ら汚れようが構わずに、ただ帰った時に又何か言われるのかと思えば溜息が出るものだ。 と、その時。ハヤテの耳が音を捉えた。 直ぐさま自分の動きを止めて周りを見る。 この近くに誰かいる、その事実がハヤテを慎重にさせる。 何度も経験した戦い、それが活かされる時は今。 身を潜めて目に捉えたのは一人の男の姿。 これを見てハヤテは迷った。 対面して、お嬢様達を見なかったか聞くべきなのか? 危険を回避してこれをシカトするべきなのか? それともお嬢様達の障害となる前に殺害するべきなのか? 最後の意見は、例えそのつもりになったとしても無理だった。 支給品はただのコスプレセット。殺害出来る物はこの腕のみ。 だがその行為は危険過ぎる。そこまでの危険を冒す必要は無いとハヤテは結論ずける。 でも危機を恐れて行動しなければ何の情報も得る事は出来ない。 だからハヤテは一番初めの意見に決めてゆっくり近付いて行った。 「あ、あのー……いいでしょうか?」 警戒しつつもハヤテはなるべく怖がらせない様に演技っぽい接し方をした。 相手は直ぐ後ろを振り向いて―――襲って来ないハヤテを見て、冷静だった。 ハヤテもその態度に、変に気を乱されなくて良かったと内心安堵した。 「この辺で金髪でツインテールの女の子を見ませんでしたか?」 「見てないかな。人はいたけどこう話すのはここでは貴方が初めてですね」 見てないという情報にハヤテは残念と思うしかなかった。 でも考えればまだ始まったばかり、その短時間で見る人なんて出る筈はない。 現実の厳しさを改めて感じ、ハヤテは出会って直ぐ質問するという態度に失礼を感じた。 落ち着いてるようで、お嬢様の事が気になって仕方ない。 ハヤテは今の自分がどうなってるのかが全く分からないまま、 取り敢えず失礼をしたことを謝罪するのが先だと感じた。 「先に質問してすいませんでした。三千院家の執事、綾崎ハヤテと申します」 「ふひきーと申します。動画投稿やってるだけの人です」 名前を交換する。 こういう事をするのも二人共だいぶ久し振りだった。 大体話す人なんて自分が知ってる人ばっかりだったからだ。 自己紹介など初対面の人以外にはやらないものだ。 少しだけ懐かしい気分に浸りながらも、ふひきーが喋った。 「取り敢えず、探し人がいるならこうやってる時間も惜しいんじゃないかな? それに外見は教えてもらったし名前を教えてもらえばこちらも保護ぐらいはするよ?」 ふひきーの提案は見事なものだった。 ハヤテは確かにそうだと思って、直ぐに喋った。 「三千院ナギという子です。少し我儘な所もありますが……それでも僕にとっては大事なお嬢様。 では、もし見つけたらお願いします!」 名前を伝えてハヤテは直ぐにその場を離れて行った。 ふひきーはその名前を脳内の何処かへと置いて、考えた。 これからどうするか。ミュウと二人の旅路をどうするのか? ボルゾイ企画の一員達と会えるのかという不安は薄く、だからこそ嫌な予感がする。 もし誰かが死して放送で名を呼ばれた時、どうなってしまうのか? ただ今はミュウと二人でこの殺し合いの会場を歩いてみるのみだった。 「さあミュウ。どこにいこうか?」 ミュウにそう喋りかけて、返答も無いままだったがふひきーは動いた。 我儘な金髪ツインテール少女、王道パターンのキャラクターじゃないかと。 それが大事な彼、綾崎ハヤテを内心応援しながら動くのだ。 (精々、死なない様には祈っておくよ) 【B-8 - 迷いの竹林】 【ふひきー@ゲーム実況・ゲームプレイ】 【状態】健康 【服装】普段の服 【装備】なし 【道具】基本支給品 ミュウ@ボルゾイ企画 【思考】基本思考:がみ君達を探しつつ、脱出経路の探索 1、ミュウと共に最後まで頑張るぞ! ※ミュウの技は、『10まんボルト』『れいとうビーム』 この4つです。『バブルこうせん』『あなをほる』 【C-8 - 迷いの竹林】 【綾崎ハヤテ@ハヤテのごとく!】 【状態】健康 【服装】執事服 【装備】??? 【道具】基本支給品 さわちゃん特製コスプレセット@けいおん! 【思考】基本思考:お嬢様(ナギ)達を探し、守護する。 1、お嬢様(ナギ)を探す。 sm053 優しすぎる 投下順 sm055 蟹と魔法少女、どっちになりたい? sm009 不幸少年達の疾走祭 綾崎ハヤテ sm000 [[]] sm032 それぞれの思惑 ふひきー sm000 [[]]
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前ページ / 豆粒ほどの小さな使い魔 / 次ページ ルイズは、幾つかの魔法を使えるようになった。 けれど火や風の魔法は、やはり使うことができなくて、ルイズのことをゼロと呼ぶ人間はまだ多い。多分、あの人たちにとっては、ルイズがどう変わろうとゼロのままなんだろう。 あまりいい気持ちはしないけど、本人に気にしてないからと言われたら、私には何も言えない。 シルフィードは、タバサに許してもらえたから、と私を相手に色々な話をするようになった。 韻竜と言うらしい、とても珍しい竜なので、他の人間にはしゃべれることを知られてはいけないと。だから私もルイズには言えないでいる。 キュルケは、ルイズをよくからかうけれど、魔法が使えるようになったことは、とても喜んでくれた。ただ、囃し立てすぎて、ルイズが拗ねてしまったけれど。 私は、ちょっと苦手だ。あまり聞かれても、話せないことの方が多いから。私個人のことならともかく、コロボックルに関ることは、言いふらして欲しくない。 最近になって、行動範囲を少しずつ学院の外まで伸ばしている。 ルイズの部屋の窓の桟を少し削って、小さな穴を開けて出入り口を作ってもらった。茶色に塗った布を貼ってあるので、見た目ではわからないし、風も入らない。 この細工は、実はシエスタがやってくれた。もちろん、ルイズに許してもらった上で。 日中は殆どルイズと一緒にいるから、探索をするのは夜だ。 木の根を飛び越え茂みを走り抜けると、昨夜残した目印の蜘蛛の糸が、月の光を弾くのが見えた。 夜の動物は、視界は鈍くても、耳と鼻が鋭い。だから一瞬も気が抜けない。 誰にも見られる心配がいらないんだと気がついてから、夜は服も簡単にした。集めてきた野草の煮汁で染めた布を、胴体と、二の腕と脛に巻きつけてる。動きやすいけど、冬は寒いだろう。 今悩んでるのは靴だ。隊の靴は上質のモグラの革を重ねたものだけど、こうして毎日のように走り回っているのだから。 一人になってよく分かる。見えないところでも、皆に支えられてきたんだと。 びりっと、うなじの辺りが緊張した。考えるよりも速く落ち葉の中に潜り込んで息を止めた。 右手は剣の柄に、左手を毒針に伸ばす。 ……いる。 やり過ごせるだろうか。 相手がばんと地面を蹴った瞬間、私もまた空に向かって跳ねた。 木を蹴って方向転換、黒い獣がさっきまで隠れていた茂みを抉った。悔しそうな唸り。猫よりもずっと大きい。金色の目が光を―― * * 夜中、ハヤテが探索に行くのは心配だけど、たった一人でも自分はマメイヌ隊なんだからと言われると、引き止めるのも難しくて。 気をつけて、怪我をしないようにと祈ることしかできないのがもどかしかった。 心配していても眠くなるのは、自分でも呆れちゃうけど、魔法の練習やらコルベール先生と話したりキュルケに振り回されたりで疲れてるんだからしょうがない。 そして、夜気を切り裂いて走っていく夢を見た。 夢と言うには、自分の息遣いや鼓動、草や地面の匂いまでがやけに鮮明で、 視点の低さから、ようやく、これが夢じゃなくて、ハヤテの感覚と繋がってるんだと思い当たった。 寝ていると、頭の働きも鈍るらしい。起きてたらすぐに気がついただろうに。 以前、走ってるハヤテの視界を感じようとしたときには、あまりの速さに目が眩んでしまったけど、私が寝てるときなら、平気みたい。 きっと、私の体からの五感が途絶えてるから、ハヤテだけに集中できるんだろう。 どこをどう走ってるのかなんて、分からない。 時々、木の幹に剣で傷を刻んだりして、きっと目印なんだろう。 最後に、するすると木に登って、一本の枝に、複雑によじれをつけた細い糸を結び付けてた。風に漂うように揺れると、月の光を弾くの。 トリスティンの騎士隊に、これほど巧みに動ける騎士なんていないんじゃないかと思う。 安心したら、何だか暗くなって、 ハヤテの笛の音に起こされた。 人が散々心配したのに、すっきりした顔してる。 誤魔化しながら聞いてみたら、やっぱり夢で見たのは、本当にあったことらしい。 ハヤテが無茶をしてないことが分かったのと、それから毎晩じゃなくて時々だけど、夢でハヤテと繋がれるようになったから、心配しすぎないようにしようと思った。 それに、ハヤテと一緒に走ってるみたいで、わくわくするし。 ただ、今日はいつもと様子が違った。 じぐざくに、目まぐるしく景色が変わる。ハヤテらしくない乱暴な走り方だ。 一体何がと思ったとき、すぐ側を大きな何かが掠めた。弾き飛ばされたみたいに転がって、素早く立ち上がってまた走り出した。 ちらりと見えたのは、とてつもなく大きな口と光る目。 自分なんて一飲みにされそうで。もし私なら凍りついて動けなくなるだろうに、ハヤテは全然止まらない。それどころか、右に左に、相手を翻弄してる。 ふっと、足元が消失した。違う、飛び降りたんだ。と思った瞬間、ハヤテが剣を引き抜いて、今踏み切ったばかりの足場に突き刺した。がくんと全身が引っ張られるその上を、獣が飛び越えて行った。 ばきがさとそれほど遠くない所で音がしたから、さして高くない崖なんだろうけど、でも一度落ちてしまえば、こちらにすぐ戻ってくることはできないだろう。 ハヤテは、しばらく剣にぶら下がったまま、暗い下方を見ていたけど、ようやく安心したのか、崖の上に戻った。 勘弁して欲しい、こんなに怖い思いをさせられるとは思わなかった。 頼むから、今夜はもう部屋に帰ってきて欲しい。 帰ってきたハヤテに怒ってやろうと思ったんだけど、気が抜けたせいか、そのまますとんと眠ってしまった。 「るいず、ドウカシタ?」 「どうかしたって……ハヤテこそ、昨夜は何かあったんじゃないの?」 どうして平然としてるのよ。 「ン、追イカケッコ、シタヨ。アレハ、ヤマネコカナ」 そんなことよりも、こっちの方が気になるんだと、悲しそうに靴に手を突っ込んでる。 怒る気も失せたわ。 「ああいうのが、マメイヌ隊の日常なわけ?」 「ソンナコトナイヨ。タダ、アアイウコトモ、タマニアル」 そこまで来て、あれ? とハヤテが首を傾げた。 「モシカシテ、昨日モ、見タ?」 「見たわよ。繋がった途端、キシャーッて追いかけられて、めちゃくちゃ驚いたんだから」 寝てる間は、意識して繋げたり切ったりできるわけじゃないから、ハヤテのせいでもないんだけど。 「本当に、心配したのよ?」 ハヤテに掌に乗ってもらう。ここにいるんだって、安心できるから。 「アリガト、ソレニ、ゴメン。本当ハ、モット早ク振リ切レタンダケド……」 そう言って差し出したのは、さっきから弄ってた靴。 あ、靴底から、ハヤテの指が、ぴょこんって飛び出してる。 「穴ガ開イチャッテ、上手ク走レナカッタノ」 あれでまだ本気の走りじゃなかったのか。 呆れるしかない。それなら確かに、ヤマネコも怖くないかも。 「怖イノハ、最初ノ襲撃ヲカワシソコネルコト。ソレサエ凌ゲバ、大抵ハ振リ切レル」 「でもその靴じゃ難しいのよね」 だからあんな離れ業が必要になったわけだし。 「自分で直せそう?」 必要なのは、薄いなめし皮と、馬の尻尾の毛が何本か。 ただ、ハヤテは裁縫が苦手なので、失敗してもいいように、少し多めに欲しいと、すまなそうに言った。 大喰らいの使い魔に比べたら、ハヤテが必要とするものなんて、本当に僅かなものなのに。 なめし皮は、皮手袋用の豚皮でいいのかしら。あれなら薄いのもあるから。 「タバサに頼んで、今度トリスタニアに買いに行きましょうか」 風竜に乗せてもらえると楽だしあの高さから見下ろす景色も最高だから。 お願いすると、意外に簡単に乗せて貰えるんだけど、いつか本当にちゃんとお返しをしたいな。 シエスタは残念ながら来れなかったけど、代わりにキュルケが混じった。いなくていいのにとつい口の中で毒づいたら、ハヤテに指笛で叱られた。 そうね、タバサの友達なんだし、そういうこと言っちゃだめか。 タバサが魔法で風を遮ってくれるので、私たちは安心して空の行程を楽しめる。 ハヤテは小さな帳面を持ってきていた。ちょっとでいいから、人間の靴屋を見学したいから、その間私たちには時間を潰していて欲しいと。 なるほど、隠れていればばれないだろうし、全く同じ作り方ではないだろうけど、確かに参考になるかもしれない。 自分の腕に自信がないのなら尚更。 「時間はいいけど、合流はどうするの? 私たちが靴屋に迎えに行きましょうか?」 「目ヲ繋ゲバ、追イカケラレナイカナ?」 「ううん、多分だめね。通りはどこも似たような造りだし、お店に入ってたら余計見つけられないと思うわ。二時間くらいしたら迎えにいくから、それまでしっかり見学してなさい」 指を立ててハヤテを諭してたら、キュルケに笑われた。お姉さんぶってるって。 喧嘩にならなかったのは、空の上だったから。シルフィードが急降下して喧嘩どころじゃなかった。 二度とタバサの読書の邪魔はしちゃいけない。 結果として、ハヤテの靴は、本人も驚くほどいいものができた。 ここの人は、靴を手作業で作っているので、もの凄く参考になったって。 だったらハヤテの故郷ではどうだったのかと聞いたんだけど、要領を得なかった。キカイが自動で作るって言われても。 コロボックルは手作りなので、私たちに近いんだとか。 私から見てもよくできてると思う。二種類の皮を貼り合せてあって、水も漏らないそうだし。 慣れてないせいで手を少し怪我しちゃったみたいだけど、とにかく、ここしばらく靴作りに励んでいたハヤテは、嬉々として外に飛び出していった。 あの様子なら、本当に心配はいらないんだろう。 それにしても、上手く行かなくて癇癪を起こすハヤテとか、普段見られない彼女が見られたのはよかったと思う。 穴の開いた靴は、ハヤテの部屋に、大切に仕舞われている。 前ページ / 豆粒ほどの小さな使い魔 / 次ページ
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